まともなイラスト一つ描けないのに「デザイナー」なんて名乗っていいんだろうかと悩んでいるデザイナー(もしくはデザイナー志望者)は意外と多いもの。
デザイナーという仕事は、国家資格を必要としない、いわゆる「自称すればなれる系」の職業なので、デッサンの基礎ができていなくてもなれちゃったりするんですよね。
もちろん僕もイラストを描けないデザイナーの一人。
今回は自分の経験則を元に、「デザイナーはイラストを描ける必要があるのか」という問題を取り上げ、自分なりの結論を出してみます。
イラストを描けないのにどうしてデザイナーになろうと思ったのか?
これ、何回か聞かれたことあります。
一般的には、「デッサンの訓練をする→美大に入る→グラフィックデザインに興味を持つ→デザイナー」という流れでデザイナーになる人が多いので、絵を描けないデザイナーが異端になるんですよね。
で、聞かれる度に適当にお茶を濁してやり過ごしてきたわけなんですが、正直に答えると以下のようになります。
鳥山明先生のイラストに衝撃を受ける。
ほぼ毎日、鳥山先生のイラストを模写するものの大して上手くならず(見ながらは描けるけど、ゼロからは描けない)。というか、鳥山先生と自分のあまりの画力の違いに深く絶望し、挫折。絵やイラストそのものは好きなんだけど、自分の絵がキライという価値観が形成される。
渋谷系と呼ばれる音楽にハマる。特に好きだったのは、信藤三雄さんのCDジャケット。写真とタイポグラフィを中心としながらも、ポップでおしゃれで訴求力のあるデザインに完全にノックアウトされる。信藤三雄さんのデザインにイラストはほとんど使われてなかったと記憶しています。イラストを使わなくてもこんなにすごいものが作れるんだと咽び泣きする。
紆余曲折を経てWeb業界に入り、気がついたらWebデザイナーに。ただ、その当時の動機としては、「デザイナーになりたい」ではなく「Webを作れるようになりたい」というのが大きかった気がします。
まあ、10代後半〜20代前半の頃はイラストを使わないデザインに夢中だったので、自分でイラストを描く必要すら感じなかったというのが正直なところでしょうか。
Webデザイナーからのスタートだったんで、「イラストを描けるかどうか」なんてものは二の次、三の次だったっていうのもあります。
イラストを描けなくて不利になったことはあるか?
Webデザイナー時代は一切ありません。
イラスト? 何それ? って感じでした。
もともと僕は自分の絵がキライなんですよ。
だからアイコンとかを手描きして自作する時には、必ずIllustratorで自分の手癖を消しながらトレースしてました。
イラレ最高じゃねーかって。
クライアントにイラストを要求されることもありましたが、当然全部外注です。
だってプロのイラストレーターさんがいっぱいいるわけですからね。餅は餅屋です。
まわりのWebデザイナーにもイラストを売りにしている人ってほとんどいませんでしたし、そんなことよりもしっかりコーディングしろよって感じでしたね。
ただ、Web制作会社から普通のデザイン事務所みたいなところに移って、状況が変わります。
僕が入ったデザイン事務所は雑誌や単行本なんかをメインに扱っているところだったんですけど、イラストを描けるデザイナーが結構いて。
で、そういう人たちがすごく手の早い人たちだったんですね。
ペンタブレットを使って大雑把に下書きをしたら、そこから爆速で一気に組み上げていく。
僕が写真を配置してその上に文字をのっけてあーだこーだとやっているうちに、ペンタブのデザイナーさんはあっという間に文字組みまで行ってしまうんです。
当時はかなりあせりました。
PhotoshopやInDesignの作業をできるだけショートカットのみで済ませて高速化し、必死に対抗しようとしたりもしました。
でも頭の中のイメージをモニタ上に素早く具現化するという作業では、最後までかないませんでした。
そのあたりがイラストを描ける人の強みですよね。
では、簡単にイラストを描けるデザイナーのメリット・デメリットをまとめてみます。
イラストを描けるデザイナーのメリット・デメリット
メリット
- 頭の中のイメージを具現化する力が強い(当然、作業も早くなる)
- 素材を使う必要がないので安く上がるし、素材を使わない分、オリジナリティが出せる
- 外注のイラストレーターにわざわざ依頼する必要がない(当然、安く上がる)
- イラストを使った表現ができるだけで、デザインの幅が広がる
- どの業種のクライアントにもイラストは受けがいい
デメリット
- デザイナーがゼロからイラストを描く仕事は多くない
- 社内報とかに用いる、報酬の発生しないイラストを描かされたりする(便利屋になる)
- 善意でイラストを用いた場合に、デザイン代とは別途のイラスト代として請求しても認められないことが多々ある(イラストを描けば描くほど泣きを見ることに)
- プロのイラストレーターには勝てない
イラストを描けないデザイナーはどうすればいいのか
以上、簡単にイラストを描けるデザイナーのメリット・デメリットをまとめてみましたが、やはりデザイナーたるもの絵が描けた方が有利であることは間違いないようです。
僕なんかがもう少し絵の訓練をしとけばよかったかなーなんて思っていること自体、イラストを描けないと有利になれないことの証明だったりしますね。
ただ、そうは言っても描けないものは描けないんで、イラストを描けないデザイナーが生き残るための方策を考えてみます。
長所をのばす
イラストが描けないということは欠点の一つに含まれると思うのですが、欠点なんて誰にでもありますからね。いちいち欠点を気にするよりも、自分の長所をのばした方が建設的でしょう。
具体的には、写真を使った表現に特化する、タイポグラフィを極めるといった方向に舵をきるといいかもしれません。90年代の信藤先生的な方向ですね。現在のプロデザイナーさんたちの中にもイラストを使わずに素晴らしい作品を作っている方はたくさんいます。
作業スピードを早くする
実際の仕事現場などでおすすめなのがこの方法。
イラストが描けない上に作業まで遅かったりすると、これだからイラストの描けないヤツは……などと面と向かって言われてしまいますので、そうならないようにPhotoshop、Illustrator、InDesignを誰よりも爆速で使えるようにしておくといいでしょう。
実際の仕事って、クリエイティブな作業のみでは成立しません。何百枚もレタッチしたり、パス抜きしたりといった地味な作業が必ず発生します。
金で解決する
自分で全部やる必要はないんですよ。
プロのイラストレーターはいっぱいいますし、買えばすぐ使える素材集もたくさん出ています。
お金はかかりますが、これなら「イラストが描けない」という弱点を克服できます。
要はクライアントが満足すればいいんです。さらにはちゃんとした報酬を払えばイラストレーターの方にまで感謝されてしまいます。
Win-Winってヤツですね。
まとめ
というわけで、デザイナーはイラストを描ける必要があるのかという問題についてまとめます。
- デザイナーはイラストを描けた方が有利
- でも描けなくてもなんとでもなる
- 欠点を気にするよりも、長所をのばすことを考えよう
あとがき
デザイナーがイラストを描いてすべての仕事が成立するのであれば、イラストレーターはこの世に必要ないってことになっちゃいますよね。
でもそんなことにはなりません。
デザイナーはデザイナーで、イラストレーターはイラストレーターです。