村上春樹のおすすめ短編作品ベスト5|短編は実験的傾向が強め!

murakami-haruki-tanpen 村上春樹

村上春樹のおすすめ短編作品をランキングで5作紹介します。

雰囲気がわかりやすいように「書き出し」部分も掲載しましたので、未読の方は参考にどうぞ。

村上春樹のおすすめ短編作品ベスト5

5位 シェエラザード

羽原と一度性交するたびに、彼女はひとつ興味深い、不思議な話を聞かせてくれた。『千夜一夜物語』の王妃シェエラザードと同じように。もちろんお話とは違って、夜が明けたら彼女の首を刎ねようというようなつもりは羽原には毛頭ない(だいたい彼女が朝まで彼の隣にいたことは一度もなかった)。彼女はただ自分がそうしたいから、羽原のために話をしてくれたのだ。ずっと一人で家にこもってなくてはならない羽原を慰めるつもりもあったのだろう。しかしそれだけではなく、というかおそらくはそれ以上に、ベッドの中で男性と親密に話をする行為そのものが彼女は好きだったのだろう__とりわけ性行為を終えたあとの二人きりの気怠い時間に__と羽原は推測した。

[出展:村上春樹著「女のいない男たち」文春文庫]

短編集『女のいない男たち』からピックアップ。

これは、羽原とこの女性(シェエラザードと彼が名付ける)との奇妙な交流を書いた話。

性的な話ではあるんですが、その切り口が今までにない感じなので、このまま長編小説にしてもいいくらいだと思う。

このように、過去の作品の焼き増しのようなものではなく、新しいネタを書いてくれたらうれしいんだけどな。

4位 ファミリー・アフェア

そういうのは世の中にはよくある例なのかもしれないけれど、僕は妹の婚約者がそもそもの最初からあまり好きになれなかった。そして日がたつにつれ、そんな男と結婚する決心をするに至った妹そのものに対しても少なからず疑問を抱くようにさえなっていた。正直なところ、僕はがっかりしていたのだと思う。
あるいはそんな風に思うのは僕が偏屈な性格であるせいかもしれない。
少なくとも妹は僕のことをそう考えているようだった。我々はおもてだってその話題を口にはしなかったけれど、僕がその婚約者をあまり気に入っていないことは妹の方でもはっきりと察知していたし、そんな僕に対して彼女は苛立っているように見えた。

[出展:村上春樹著「パン屋再襲撃」文春文庫]

僕が妹から婚約者を紹介されるというストーリーですが、「僕」が小説家としての村上自身になっているのがポイント。

要は、自分を戯曲化していると。

自らが築いた狭い壁の内側で世界を成立させようとする自分自身へのアンチテーゼとも読み取れます。

壁の内側を描くあたりが、現実版『世界の終り』とも言えるのではいでしょうか。

3位 納屋を焼く

彼女とは知りあいの結婚パーティーで顔を合わせ、仲良くなった。三年前のことだ。僕と彼女はひとまわり近く歳が離れていた。彼女は二十歳で、僕は三十一だった。でもそれはべつにたいした問題ではなかった。僕はちょうどその頃頭を悩まさなければならないことが他にいっぱいあったし、正直なところ歳のことなんていちいち考えている暇もなかった。彼女はそもそもの最初から歳のことなんて考えもしなかった。僕は結婚していたが、それも問題にならなかった。彼女は年齢とか家庭とか収入とかいったものは足のサイズや声の高低や爪の形なんかと同じで純粋に先天的なものだと思いこんでいるようだった。要するに考えてどうにかなるという種類のものではないのだ。そう言われてみれば、それはまあそうだ。

[出展:村上春樹著「蛍・納屋を焼く・その他短編」新潮文庫]

タイトルだけではどんなストーリーなのかまったくわかりません。

が、読み進めても「納屋を焼く」ことが何を意味しているかは最後まで提示されずに終わります。

これは作品全体が大きなメタファーになっているということですね。

「小説家の仕事とは問題提起をすることなので、必ずしも答えを出す必要はない」という村上の作家的ポリシーとも読み取れます。

2位 午後の最後の芝生

僕が芝生を刈っていたのは十八か十九のころだから、もう十四年か十五年前のことになる。けっこう昔だ。
時々、十四年か十五年なんて昔というほどのことじゃないな、と考えることもある。ジム・モリソンが「ライト・マイ・ファイア」を唄ったり、ポール・マッカートニーが「ロング・アンド・ワインディング・ロード」を唄っていたりした時代__少し前後するような気もするけれど、まあそんな時代だ__がそれほど昔のことだなんて、僕にはどうもうまく実感できないのだ。僕自身あの時代から比べてそれほど変っていないんじゃないかとも思う。

[出展:村上春樹著「中国行きのスロウ・ボート」中公文庫]

『羊をめぐる冒険』の後に書かれた短編で、初期の代表作。

この作品から書こうとしているものが、より明確になります。

書こうとしているものとは何か?

もちろん「死」です。

この作品を書いたあたりには、もう『ノルウェイの森』に続いていく流れができていたと考えるのが自然でしょう。

1位 めくらやなぎと眠る女

背筋をまっすぐのばして目を閉じると、風のにおいがした。まるで果実のようなふくらみを持った風だった。そこにはざらりとした果皮があり、果肉のぬめりがあり、種子のつぶだちがあった。果肉が空中で砕けると、種子はやわらかな散弾となって、僕の裸の腕にのめりこんだ。そしてそのあとに微かな痛みが残った。
風についてそんなふうに感じたのは久しぶりだった。長く東京にいるあいだに、僕は五月の風が持つ奇妙な生々しさのことをすっかり忘れてしまっていた。ある種の痛みの感触さえ、人は忘れ去ってしまうものなのだ。肌にのめりこんだ何かが骨を浸すあの冷やかささえ、みんな忘れてしまう。

[出展:村上春樹著「蛍・納屋を焼く・その他短編」新潮文庫]

「午後の最後の芝生」からわずか3年足らずで、村上が小説的高みを駆け上がったことがよくわかる作品。

年下のいとこを病院に連れていくというだけのシンプルなストーリーですが、この作品が持つ内省的でダークな深みが奇妙な読後感を後に残します。

もちろん、この作品にも作者の答えみたいなものはありません。

ただ、それでも最後にカタルシスを感じることができるのは、「生」のメタファーがところどころに散りばめられているから。

あとがき

村上春樹のおすすめ短編作品を5作ほど紹介しました。

村上春樹の短編を読んでみると、とにかく村上自身が実験をしながら文章を書いているのがよくわかります。

短編作品に目を通せば、長編作品をより理解するためのヒントになるかもしれませんね。